図書館と学部教員の緊密な協力により、イーブックの利用が広まった経緯とは

Lisa  Petrachenko

リサ・ペトラチェンコ

ビクトリア大学図書館大学司書補佐(学習・研究リソース担当)

ビクトリア大学図書館で大学司書補佐を務めるリサ・ペトラチェンコ氏から、図書館のサービスや蔵書コレクションを広報し、同大学にイーブックを導入することに成功した経緯と、電子コンテンツをはじめとする学習リソースを学生が利用しやすいように各学部が協力して取り組んでいること、さらには教科書のオンライン化による学生の変化についてお話をうかがいました。

10年前にライセンスを取得したイーブック・コレクションの利用が増加

ビクトリア大学は2016年に初めてシュプリンガーネイチャーのSTM(科学・技術・医学)コレクションを導入しました。それ以降、同大学の図書館は理工系や芸術・人文科学、社会科学全体に及ぶ幅広い分野のコレクションを大幅に増やしてきました。過去10年間、大学がイーブックに多額の投資を行うためには、利用できるタイトルを広く知らせ、全ての学生が入学初日から必要とする文献を簡単に利用できるよう、図書館と教員が緊密に協力する必要がありました。現在、同大学ではあらゆる分野において数多くのイーブックがダウンロードされており、その利用件数はライセンスを取得した10年前から99%増加しています。

ビクトリア大学図書館での業務と、近年のイーブックの利用動向についてお話しください。

私は大学司書補佐として、学習・研究リソースを担当し、イーブック購入部門とメタデータ部門も含む、紙媒体と電子媒体のコレクションの管理業務を統括しています。さらに職務の範囲内で、研究に関する相談や指導、科目別のコレクション作成を担当するリエゾンライブラリアンと緊密に協力しています。

現在の職に就くまでは、(カナダ国内のコンソーシアムであるCRKN‐コンテンツ戦略委員を務めつつ)イーブックの購入・電子リソース担当司書を12年間務めていました。したがって長年、ライセンシング業務に携わってきたことになります。その間、私はライセンス・ビジネスが拡大する状況を注視しつつ、オープンアクセスの増加に伴うライセンスの変遷と、コンテンツの入手可能性とアクセスビリティに関する学生の期待がどのように変化するのか注目してきました。これについては、過去数年間に多くの変化が起こっています。また、図書館に対しては、コンテンツにただちにアクセスできるようにし、私たちにとっての現在の課題であるバリアフリーを可能な限り実現できる独創的なソリューションを求める声が高まっています。ご存じのように、質の高い文献の制作にかかるコストはもちろん、研究者の時間や文献の保存と普及に伴うコストも発生します。問題は「そのコストはどうあるべきなのだろうか?」という点です。

学生に関していえば、教材費への対応を求める声があがっています。またここ数年の間には、キャンパスにおいて、(ライセンス・コンテンツに対する)意識が向上し、教員が安価なオプションを求める動きがありました。当館では、これらの声に応えるため、学習・教育支援・イノベーショングループ(LTSI)やビクトリア大学学生ソサエティ(UVSS)などの他の部門と協力し、オープン教育リソース(OER)の開発に向けた補助金を提供しています。当館が初めてシュプリンガー(当時)の工学分野のイーブック・コレクションを購入した時、学生がMyCopyという簡易冊子体をわずか24.99ドルで注文できると知った工学部の教員から、大きな喜びと驚きの声が寄せられました。当館は、シュプリンガーのイーブックをリリース直後からいち早く採用してきました。私はユーザー数に制限を設けず、フルテキストにデジタル著作権管理がない同社のイーブックを、他の出版社が見習うべきモデルとして常に紹介してきました。コンテンツに不必要なバリアや制限を設けることにはまったく意味がないと私は考えています。

当館で、2006年に最初に導入したシュプリンガーのイーブックは、医・理工系 (STEM)のコレクションです。その後、人文・社会科学分野へのアクセスも可能にしたいと考え、パルグレイブ・コレクションを購入しました。パルグレイブ・コレクションは後にシュプリンガーネイチャーに統合され、現在では、全ての学術分野にわたり幅広い領域を網羅したコレクションを保有しています。あらゆる分野の幅広いコレクションを保有していることが非常に重要な意味を持つのです。

現在では、図書館の全ての書籍がオンラインに移行したのでしょうか?

現在、当館が所有するシュプリンガーとパルグレイブの書籍は、全てオンラインのみに移行しています。また「冊子体承認計画」を策定しており、それにより年間の冊子体購入数は減少しつつあります。一方、イーブックは増加しています。現在、当館が購入するイーブックの総数は、10年前に購入した冊子体の総数を上回ろうとしています。書籍のオンライン化が進んでいますが、現在はこれがユーザービリティに与える変化にも注目しています。当大学の通信教育を受講する学生の数は年々増加しており、イーブック・コレクションを利用すれば、通信課程の学生の利便性を大幅に改善し、これまで以上に柔軟に対応することができるようになります。

数千冊に及ぶイーブック・コレクションを購入し、ただちに利用可能とするのは比較的簡単なことです。また利用状況をモニタリングし、費用対効果(ROI)を示すこともできます。とはいえ、書籍が与えるインパクトが高まるには長い時間を要する場合があること、そして初年度にすぐ利用があがるわけではなく、導入から2~5年してから利用が増えるという事実を念頭に置いておかなければなりません。重要なのは、イーブックを広報することは、冊子体よりもはるかに簡単であるということです。ソーシャルメディアへのリンクの掲載など、簡単な作業で利用状況に大きな影響が生じます。現在では、イーブックが人々の目に止まるようにするため使えるオプションが大幅に増えています。

利用統計をどのくらいの頻度でモニタリングしていますか? 図書館が学部教員と協力してイーブック・コレクションの利用を推進している方法を教えてください。

当館には、シュプリンガーネイチャーのアカウント・デベロップメントマネージャーであるメラニー・マッセラント氏が定期的に来館し、全コレクションの大規模なレビューを年1回実施しています。このレビューにより、最も利用が多い分野を明らかにします。ある書籍が講座に採用されると、それをきっかけに採用数と利用数がまたたく間に増加します。(特に工学部の)教員は、イーブック・コレクションから何らかのタイトルを教科書採用した場合、学生が書店で冊子体を高額で購入する必要がなくなり、高いメリットが得られると考えています。また当館ではリエゾン・ライブラリアンプログラムを実施して、各学部に専門司書を配しており、特定のコレクションやブックタイトルをこれまで以上に集中的に宣伝することが可能となっています。

図書館が教員と協力してイーブック・コレクションの利用を推進している方法を教えてください。

当館では大型イーブック・コレクションの購入を開始して以降、講師や教員と直接協力し、利用可能なイーブックを広報し、露出を増やす方法を探ってきました。現在では、教員は意欲的に図書館と直接関わり合い、各々のコースマテリアルにリンクを掲載するなど、自らイーブックを積極的に宣伝しています。当館の著作権・学術コミュニケーション担当司書は全ての教員に対し、学生向けに高価なコースパックを作成する必要はないというメッセージを熱心に送り続けました。現在、当館ではイーブックをライセンス契約して、教員が各々のコースマテリアルから教科書へのリンクを張り、シラバスをオンラインで作成して学生が利用しやすい体制になっています。シュプリンガーのイーブック・コレクションを契約していなければ、ここまで実現しなかったでしょう。この変化は当館だけではなく、教員にとっても重要な意味を持ちました。教員は、推奨する書籍へのリンクを学生に簡単に送ることができるようになりました。また、アクセスしやすくなったことから、教科書に積極的に触れる学生が増えたことも間違いありません。これらは全て、図書館と教員による多大な努力と協力によって成し遂げられたものです。このような意識の変化は一夜にして起こるものではありません。全ての教員が同じ方向を向いているとはいいませんが、それでも変化が見えはじめているのは事実です。オープン教育リソースにおいて大きな成長が見られるものとしては、教科書に関連する補足資料(クイズ、宿題など)が挙げられます。これもまた学生の積極的な参加に大きな影響を与えている要素のひとつです。

現在では学生がオンラインでアクセスできる書籍が増えていることで、学生の教科書への向き合い方に変化は見られるのでしょうか?

はい、間違いなく変化が見られます。チャプターをダウンロードできるようになり、あるいは教科書中に各チャプターへのリンクが張られて容易に遷移できるようになったことで、学生が書籍にどう向き合い、どう読むかが変化しました。特に学部生は、文献を詳しく調べ、キーワード検索ができるようになったことを歓迎しています。書籍を最初から最後まで通読する学生は減ったように思いますが、その代わりにキーワードで検索し、関連するセクションに重点的に目を通すようになっています。この閲覧方法と、書籍/教科書を通読する方法とを比較した場合の理解度の違いは、まだわかりません。とはいえ、さまざまな情報源から使用する部分を選択・抽出する教員も増えています。彼らは複数の書籍から複数のチャプターを選択し、これらをまとめて教材を作成していますが、そうすれば、学生は全ての書籍を購入する必要はなくなります。

イーブックが増えると、コースマテリアルを積極的に利用する学生も増えてくると強く思います。以前の学生には、書籍を自分で購入するか、図書館で探すしかなく、その場合誰かが借りていれば、その書籍を読むことはできませんでした。現在では、わずか数分間で関連する文章を検索して発見することができるようになっています。そしてシュプリンガーのようなイーブック・コレクションがあれば、同時アクセス制限を心配する必要は全くなくなります。

イーブックができるだけ簡単に見つかるよう、当館は書籍のメタデータを改善し、強化する必要があります。データの質が改善されるほど、それぞれのタイトルを発見・アクセスしやすくなります。現在の学生は、オンラインで自力で作業することに慣れているので、自身の研究のために図書館に出かける必要が少なくなっていると思われます。そのため、現在では学生による検索を記録し、正確な検索結果を返すため、メタデータの重要性が大きく高まっています。それでもまだ、司書が研究者に伝えなければならない新しい知識は数多く残っています。したがって図書館と教員、学生が互いに関わりを持つことがいまなお極めて重要です。だからこそ私たちは多くの時間を費やし、その関係を深めるようにしています。

イーブック・コレクションを幅広く導入して以降、図書館と書店との関係はどのように変化したと思いますか?

キャンパスでは、オープン教育リソースワーキンググループを設立しています。このグループには、図書館と学習・教育支援・イノベーショングループ(LTSI)、書店が参加しています。書店は、グループ発足時からの中心的なメンバーです。書店員は、状況が変化しつつあることを理解しており、実際にオープン教育リソースに強い支持を表明しています。書店を通じて販売する書籍でも、リースやアクセスコードを利用したデジタル版の割合が増えています。そして書店は、大学出版局と連携して新たな収益モデルを自ら積極的に模索したり、新たな成長分野を模索したりしています。彼らはオープン教育リソースを通じた私たちの取り組みを強く支持してきましたし、実際に意見が対立することはさほどありませんでした。

その他の重要な点としては、当館では通常、教科書を蔵書として購入しないことが挙げられます。教科書は短期間で時代遅れになってしまうことが主な理由です。当館では教員の個人用の教科書を保管できるシステムで、学生はそれを利用できますが、アクセスは明らかに制限されることになります。通信課程の場合、当館ではなるべくイーブックを購入することにしています。というのも、キャンパス外から多くの人々がイーブックにアクセスする必要があれば、財務面からも理にかなう方法であるからです。シュプリンガーのイーブック・コレクションは非常にアクセスしやすく、しかもDRMフリーであるという事実は、大きなメリットです。

利用可能なイーブック・コレクションをどのように広報していますか?

図書館と各学部、リエゾンライブラリアンによる共同作業で行っています。また、図書館ガイドと教員向けのニュースレターも利用し、新たに導入したイーブックや分野コレクションを宣伝しています。課題としては、世の中には(無料のものも高価なものも含め)あまりにも多くのコンテンツがあふれているため、教員が利用可能なコンテンツを必ずしも全て把握することができない点があげられます。そのため、新しいコンテンツとリソースを継続的に教員に紹介するとともに、学生をサポートするさまざまなサービスを評価することが当館の仕事となります。学生は既に高額の授業料を支払っています。したがって学生の教材費をできるだけ軽減できるよう、文献などの必要な資料に簡単にアクセスできるよう支援することが、私たちの重要な任務でもあります。

図書館を利用する学生の数の変化はありますか?

面白い質問ですね。特に目立つような変化は起こっていないと思いますが、入館者の数は非常にいい数字を得ています。当館ではこれまで何度も改修工事を行ったため、心地よいスペースが備わっていることにあるのかもしれません。近年、キャンパスでは、学生が作業するための快適な共同スペースを創り出すという取り組みを行ってきました。当館では、利用が少なかった定期刊行物用の閲覧室を、豊かな自然光を取り入れたラウンジスペースに改修しました。現在は、これまであまり訪れようとしなかった幅広い層の人々を引きつけるような設備やリソースが整備されています。そのため、館内で過ごす人々の数が実際に増えていることが分かっています。

また物理と数学のチュートリアルサポートを備えたラーニングコモンズの他、論文執筆センター、研究スキルセンター、当館司書が運営する研究サポートサービス、さらには留学生をサポートする国際共用スペースも設けています。また学生向けの共同スペースや、データとコンテンツを処理するソフトウェアとツールが利用できるデジタルスカラーシップ共用スペースも備えています。当館の特別コレクションやアーカイブを利用したいと考えている教員が増えていることも分かっています。さらにそのコレクションの隣には、教員が学生に資料を提供し、リソースのすぐ隣で講義を行うことができる指導室を設置しています。私たちは正しい協力関係を敷き、教員と学生の双方に適正なツールとサービスを提供することにより、図書館を訪れる人々を増やすべく懸命に取り組んでいます。


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