大学における図書館と研究支援・情報部門との戦略的な協働と連携~書籍ポータルサイト運用を通した実践的な協働事例~

第20回 図書館総合展 教育・学術情報オープンサミット2018

シュプリンガー・ネイチャー フォーラム

日時: 2018年 11月 1日(木)10:00 – 11:30
 

シュプリンガー・ネイチャーは日々の活動を通して、図書館の皆様から「自学教員の新刊著書の情報をいかに収集し、学内外に向けて発信・広報できるか」について、度々ご相談をうけます。また、「研究成果を取り纏める研究推進部、もしくはそれに準ずる部署が、図書館と情報を共有・協働している事例があれば、今後の参考にしたい」といったお声をいただいています。同時に著者からは、「論文だけではなく、書籍による研究成果にも注目してもらいたい」、「自著の電子版を教材として広く活用してもらいたい」といったご要望を頂戴しています。

本フォーラムでは、この課題の取り組み例として、京都大学学術研究支援室(KURA)と京都大学附属図書館から講演者をお招きし、「京大新刊情報ポータル」を通して論文以外の出版物(書籍)の情報を発信し、京都大学の研究成果と知見を内外に広く伝えることを始めた要因、新刊ポータルの運営方法、教員(著者)データ構築のためのテクニックと、現状の課題を発表いただきました。また、フォーラム開会の挨拶では、シュプリンガーネイチャー日本法人営業統括ディレクター の遠藤昌克より、SpringerLinkの電子書籍コレクションに導入された、書籍評価指標ツール『Bookmetrix』を紹介しました。


講演1:大学における図書館と研究支援・情報部門との戦略的な協働と連携

~ 書籍ポータルサイト運用を通した実践的な協働事例 (1) ~

神谷 俊郎氏(京都大学学術研究支援室 - KURA)

まずは、京都大学学術研究支援室(KURA)の「人文社会科学系研究支援プログラム」の一環として構築された、「京大新刊情報ポータル」をご紹介いただきました。ポータルサイトの収録内容、学生による書評の活用、一般的な機能の説明だけでなく、各書籍の紹介ページに京大図書館、CiNii Books、出版社ウェブサイトなどの図書目録や、京都大学教員データーベース、Researchmap、著者の研究室情報など、研究者プロフィールへのリンクを提供することで、ユーザーが関連書籍や著者の研究活動情報を容易に入手できるよう、数々の工夫を施された過程を解説されました。

次に、「京大新刊情報ポータル」の収録図書内訳とその分析を紹介され、人文社会科学系では論文よりも書籍が重要であり、書籍の刊行情報配信は人社系研究成果の可視化に貢献できることを、明確に提示いただきました。

更に、京都大学図書館機構、京都大学学術出版会、京都大学生活協働組合、協力出版社との協働内容や、京都大学学術研究支援室(KURA)が学内の人社系研究者が出版した図書を研究成果出版物として重要視した経緯、「京大新刊情報ポータル」を恒久的かつ国際的に運用してくための今後の課題をお話しされました。



講演2:大学における図書館と研究支援・情報部門との戦略的な協働と連携

~ 書籍ポータルサイト運用を通した実践的な協働事例(2)~ 

著者名典拠で成果を可視化する

冨岡 達治 氏(京都大学附属図書館 学術支援課 課長補佐)

まずは京都大学附属図書館学術支援課のオープンアクセス推進事業より、京都大学レポジトリ(KURENAI)の構築における、研究論文データの管理、公開、およびKAKEN、Scopus、Researchmapなどの著者データと京大教員DBの照合など、京都大学が配信する研究論文情報の管理手順とノウハウを解説いただきました。

次に「京大新刊情報ポータル」での附属図書館学術支援課の役割、人文社会科学系の研究成果および自然科学系の教科書としての図書の重要性、それらを成果物としてアピールするために教員情報と著者名典拠との紐付けが必要であると結論づけた根拠を、分かりやすくご説明いただきました。

京都大学所属研究者の著者名典拠の構築と活用については、「モレのない検索のための、さまざまな表記に対応したデータの作成方法」、「他の著者DBとのリンク」、「書籍レコードと著者名典拠レコードのリンク」、「CiNii Booksや図書・雑誌検索を活用した自学新刊情報の取得方法」など、他学でも応用ができる数々のテクニックを紹介いただきました。そして、京都大学だけでなく他学でも同様に充実した著者名典拠の作成や「図書」の評価指標が活用できること、学内協働のタスクで図書館だからこそできること、すべきことを、会場のみなさまにご提案いただきました。


追加報告


講演後のアンケートでいただいた質問について、神谷氏と冨岡氏より回答をいただきました。

Q1. 京大新刊ポータルの利用統計と分析について、アクセス数に対して何らかの分析はされていますか?傾向がありましたら教えてください。

神谷氏: いまのところアクセス数は、適宜参考にしているという程度です。アクセスに対して積極的に分析を加えることは行っていませんが、Google Analyticsが入っているので、分析しようと思えばできる仕組みになっています。ポータル全体としてroot以外では、エッセイやレビューにややアクセスが多いことがわかっています。いずれ個別図書や分野別でも、分析ができればと思っています。



Q2. 掲載を「新刊」に限定したのは、過去データを集めるのが大変だからでしょうか?

神谷氏: 過去データを全部網羅すると膨大な量になって、とても我々だけでは対応できません。京大では過去100年以上、数万冊の単位で書籍が出版されてきたと思われるので、我々は「2017年以降に新たに出版されたもの」に限って扱い、「新刊本をいち早く紹介するポータル」にするという方針で始めました。
 

Q3. 新刊と限定されていますが、改訂版等の扱いは除くのですか?

神谷氏: 改訂版も扱っています。煩雑になるのでサイト名には反映させていません。

「京大新刊ポータル」改定版図書一覧


Q4. 京都大学の研究支援組織において、URA、図書館、学術出版会の連携は定期的に行われていますか?そこに教職員、研究者が何らかの形でかかわるシステムはあるのでしょうか。

神谷氏: URAと図書館での連携および運営会議(ワーキンググループと呼んでいます)は、定期的に行っています。京大学術出版会は情報提供などを適宜行っていますが、運営には直接は関わっていません。教員・研究者は、サイト運営には関わっていませんが、掲載情報はすべて所属研究者のものですから、フィードバックや入力ミスの修正指摘をいただくこともあります。その意味では全員が「何らかの形でかかわっている」とも言えます。

     

Q5. 本件で収集された図書や書籍情報は永久保存でしょうか?


冨岡氏:以下、3つに分けて説明します。


1.図書(現物)
図書(現物)については、一般の図書館資料と同様に、利用(貸出)できるようにしています。そのため、紛失や破損等により、利用できなくなる可能性はゼロではありません。予算や保存スペースの関係もあり、永久保存用に「利用させない図書」を整備することはしていません。

2.書籍情報(目録情報)
現物の図書を所蔵している限りは、蔵書検索システムで検索できるよう、目録情報を保存しています。また、京都大学で所蔵していなくても、国会図書館や他の図書館で所蔵していれば、それぞれの図書館の蔵書検索システムに目録情報が保存されることになります。

3.書籍情報(教員別の著書リスト)
書籍は日々出版されるため、著書リストの保存期間は、図書館においては1か月程度です。その代わり、教員別の著者典拠IDは、当該教員が在籍する限り、保存しています。著者典拠IDにより、当該教員の著書リストをいつでも取得できる仕組みです。退職あるいは転出した教員の著者典拠IDの削除は、現時点でしていませんが、いつまで保存するかは未定です。

   

Q6. 改訂版や絶版の取り扱いはどのようにされていますか?

冨岡氏:

■改訂版
第○版といった改訂版は、出版業界および図書館業界においては別物という扱いのため、著書リスト上も個別に扱っています。そのため、改訂版が出版された場合には、収集対象となります。なお、改訂版が出版されたからといって、旧版を除籍することは、通常ありません。科学史といった歴史研究のためにも、旧版も所蔵・保存することが必要となります。

■絶版(または品切重版未定)
絶版(または品切重版未定)は、その時点で市場での入手が不可能なことを意味します。ある教員について、京都大学在籍中に出版された著書は、その時点で収集するようにしています。ただ、他機関から転入した教員が転入前に出版した著書については、市場で入手できないものもあります。その場合は、教員本人から寄贈いただくことはありますが、古書市場まで手を広げることはしていません。

                              

Q7. 著者典拠や教員DBには、改訂版と絶版の情報はどのように反映されますか?

冨岡氏:

■著者典拠
著者典拠は、著者の情報のため、旧版、改訂版それぞれの書誌(書籍情報)と紐付いています。また、図書館目録における書誌には、その時点での市場流通情報はありませんので、絶版(または品切重版未定)かどうかは、わかりません。

■教員DB
旧版と改訂版は別物のため、教員DBにも別物として掲載されます。また、教員DBにおいて、著書は「業績」であるため、絶版(または品切重版未定)といった市場流通情報は、ありません。