教育学イーブック・コレクション:最新動向とSDGsへのコミットメント

シュプリンガーネイチャーの教育学分野における出版プログラムは、幅広い分野を網羅し、モノグラフ、テキストブックなどで構成されています。本分野では、Society of Professors of Education Book Award、SoNick Melchior 270pxciety for Educational Studies Book Prize、Critics’ Choice Bookをはじめ、多数の賞を受賞しています。

Springerの社会科学・教育学編集部の書籍出版部長であるNick Melchiorに教育学コレクションの特徴とこれまでの発展について伺いました。

出版の仕事を始めてどれくらいですか。これまでの経歴を教えてください。

2013年にシニア・エディターとしてシュプリンガーに入社しました。それ以前も複数の出版社で書籍やジャーナルの仕事をしていました。教育学分野の出版に従事するようになったころは妻も教員になるための勉強をしていたので、彼女からも多くを学びました。

シュプリンガーネイチャーの教育学出版プログラム の特徴は何ですか?

特筆すべき点がいくつかあります。第一に、私のチームが担当しているのはプログラム の中でもSpringerのプログラムであり、同時にPalgraveのチームが提供している書籍も重要な部分を占めています。Springerの教育学プログラムは、数学と科学教育から始まりました。この10年間でラインナップは大幅に拡充され、現在はたとえば幼児教育や教育心理学、語学教育に関する タイトルも含まれています。科学・技術・工学・医学(STEM  )分野の主要トピックにも引き続き注力しており、Contemporary Issues in Technology Education等のシリーズを通じて、技術教育の分野にも進出しました。二つ目の強みは、著者が世界中にいることです。教育学の書籍出版プログラムのために活動する社内の編集者も、オランダ、中国、シンガポール、オーストラリア、米国にいます。このように、私たちの活動は世界中に広がっています。

同僚でもあるPalgraveのチームは包括的で革新的、かつ受賞歴のあるグローバルなアプローチを採用し、教育社会学、オルタナティブ教育、成人教育/生涯学習等の領域に取り組んでいます。このSpringerとPalgraveという2つのインプリントは補完的な関係にあり、全体としては高等教育、教育史、国際教育学・比較教育学、教育政策等、幅広いテーマをカバーしています。 

第三の強みは、コレクション に含まれる書籍の品質を確保するために、厳格な査読システムを採用していることです。

2014年に採択された持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development, ESD)に関する「あいち・なごや宣言」もありますが、国連の持続可能な開発目標(SDGs 2015-2030)は出版されるタイトルに反映されていますか。
教育は気候変動、生物多様性、持続可能な消費と生産について語り、インクルーシブで公平な、質の高い教育を確保し、すべての人に生涯学習の機会を提供する必要があるという視点からお尋ねします。

世界中の人々がSDGsの達成に取り組んでおり、もちろん私たちもSDG4(質の高い教育をみんなに)やインクルーシブな教育に力を入れています。SDG10(人や国の不平等をなくそう)や、特にPalgraveの場合はSDG5(ジェンダー平等を実現しよう)とも深いつながりがあります。最近は、教育における環境問題を扱ったタイトルが増えており、SpringerからはInternational Explorations in Outdoor and Environmental Education 、PalgraveからはPalgrave Studies in Education and the Environment シリーズ等があります。教育格差の解消を論じたタイトルも増加傾向にあり、Education Policy & Social Inequality seriesシリーズがそれに当たります。さらに Springer Sustainable Development Goals シリーズがあります。

代表的なタイトルとシリーズを教えてください。また、テキストブックは教育学コレクションの柱となっているのでしょうか?

代表的なシリーズは、ハンドブックであるSpringer International Handbooks of Educationでしょうか。これまでに50点近くのタイトルを出版しました。百科事典は出版プログラムの 柱となっており、最近ではEncyclopaedia of Mathematics Educationを刊行しました。これらのレファレンス・ブックからは、他のシリーズを含め、多くの出版プログラムが生まれました。テキストブックも数年前から本格的に展開しています。すでにSpringer Texts in Educationのような人気シリーズが育っています。このシリーズは2016年に始まり、間もなく30冊目が出版されます。専門性の高いトピックから基礎的なテーマまで、幅広いテキストブックが揃うので、誰でも関心のある一冊を見つけることができると思います。

Palgraveでもテキストブックの出版が始まり、Research Methods for Social Justice and Equity in Education 等の重要なタイトルが出版されました。Palgraveには、他にもThe Palgrave International Handbook of Action ResearchThe Palgrave Handbook of Sexuality Educationといった重要なタイトルがあります。

教育学の書籍出版プログラムは、ここ数年でどのように発展しましたか?出版が特定の地域に集中する傾向は見られますか?

当初は数学・科学教育分野に注力していました。その後、大きく発展し、現在では、教育哲学、幼児教育、教育における社会的公正、デジタルおよびテクノロジー教育、教育政策と政治等、幅広い分野を網羅するようになりました。地域について言えば、10年ほど前からアジア・太平洋地域に積極的に進出し、現在は私の拠点であるメルボルンに加えて、シンガポールや中国にも編集者がいます。

Palgraveは引き続き、社会的公正に関わるテーマや脱植民地化といった問題に焦点をあてたタイトルに注力していますが、オートエスノグラフィーやデジタル教育といった新しい分野でも出版点数を増やしています。また、ラテンアメリカ・カリブ海地域では著者の増加に伴い、出版点数が増えており、まもなくLatin America and the Caribbeanというシリーズが刊行される予定です。

現在、教育学における新たな研究動向は何でしょうか?新型コロナウイルス感染症の世界的拡大を機に、新たに注目されるようになったテーマはありますか?

視点が国際的になってきたと感じます。協調的な取り組みが増え、世界に目が向くようになりました。これはすばらしいニュースです。プログラムとしては、なるべく幅広いトピックを扱うことを目指しているので、実務的な定量的研究に加えて、哲学的分析に比重を置いた研究も積極的に収録しており、全体としてはあらゆるトピックを扱っています。あえて言うなら、この10年間に主流であったデータ重視の研究からは遠ざかっているように思いますが、もちろん現在も行われており、それはそれで重要です。

新型コロナウイルス感染症(によるロックダウンや授業の停止などを受けて)は、棚上げになっていた出版企画書を仕上げるための機会でしたが、そのほとんどはコロナとは関係のないテーマの研究です。「ポスト・コロナの教育」といったテーマの企画書も多数受け取りましたが、率直なところ、憶測の部分が多いという印象です。内容は玉石混淆であり、注意して質を見極める必要があります。遠隔教育やリモート学習についても、関連書籍が広く読まれるようになり、研究が人目にふれる機会が増えているため、今では主流のトピックとなっています。コロナが残した教訓がもう少しはっきりする2021~22年ごろに、非常に優れた研究が出てくると見ています。

職業教育訓練の重要な役割は、出版リストに反映されていますか?ウィズ・コロナまたはポスト・コロナで、職業教育訓練の役割は変化する、あるいは重要性が高まると思われますか?

職業教育訓練に関しては、いくつかの非常に優れたタイトルを提供しています。例えば、Technical and Vocational Education and TrainingProfessional and Practice-based Learningなどのブックシリーズや、2019年に刊行したHandbook of Vocational Education and Trainingなどのハンドブックです。このテーマに関しては、PalgraveもPractice-Focused Research in Further Adult and Vocational Educationといったタイトルを出版しています。今後は、新型コロナウイルス感染症の拡大がもたらした失業や不況の影響を受け、ここ何年もなかった規模で、あらゆる年齢層の人々が再訓練に取り組まざるをえなくなるでしょう。こうした変化に対処するために、職業教育訓練に関する研究の重要性がかつてないほど高まっていくはずです。


ニック・メルキオールは、2020年10月に日本の著者向けに開催された書籍出版オンラインセミナー「社会科学における電子出版のすすめ」にも登壇しています。録画をぜひご覧ください。


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