ブレグジット、ビットコイン、etc. ― 独創的な研究が収録された経済・ファイナンスのイーブックコレクション:Rachel Sangsterインタビュー

T_stage_economics_finance_1680x400 © Shutterstock

経済学および金融分野において、グローバルな研究がかつてないほど盛んに行われています。先の経済危機が今なお世界中の国々や私たちの暮らしに影響を及ぼし続ける中、変化の速い、脆弱な経済環境に対する新たなアプローチが一層必要とされています。
シュプリンガー・ネイチャーのインプリントであるPalgrave Macmillanで経済学・金融分野の責任者を務めるRachel Sangsterが、Economics and Financeイーブック・コレクションについて、新たなトレンドや実験的理論と、著名な研究者や国際的な協力機関が長年蓄積してきた専門知識とのバランスをどのように取っているのか、語ります。
 

経済・金融分野の読者層について教えてください。近年その読者層に変化があると思いますか。

主な読者層は、学生、大学関係者、研究者、経済学・金融の教員など、極めてアカデミックな人たちです。これは以前から変わりません。しかし、タイトルが増え、収載する出版物が多岐にわたるにつれ、読者層は実務家、政策担当者、専門職従事者などにも広がっています。


イーブック・コレクションはモノグラフ(書き下ろし学術書)とContributed Volumes(複数著者による学術書)が特に多いようですが、何か理由はありますか?今後は他のフォーマットも増えてくるのでしょうか?

当社の最大の顧客である学術図書館では、当然ながら学術コンテンツが必要とされています。モノグラフやContributed Volumesは、専門性がより高いジャーナルでは提供できない広範囲にわたる学際的な議論が展開できます。そのため、学術研究のコミュニティーにおいて、書籍はまだまだ必要とされています。最近はテキストブックが増えており、HTML版のテキストの内容に沿った動画が埋め込まれたものも提供しています1)。分野の第一人者が編集し、一つのテーマについて包括的な視点を提供するハンドブックも学生、研究者、実務家の間で需要が高まっています。


経済学・金融分野では冊子体よりもイーブックの方が好まれていますか?

経済学・金融分野の研究者の多くがよく利用するのは、やはり冊子体ですが、イーブックの需要も高まっています。イーブック・コレクションの利用者数は2017~18年で39%増えました。最も支持しているのは、おおむね学生です。研究分野に応じてコンテンツを自由に選べ、章単位でダウンロードできる点が気に入られているようです。この点で、ハンドブックとテキストブックはとりわけ学生が利用しやすいフォーマットです。金融の専門家向け書籍、特にフィンテックに関する書籍も、オンラインでの利用が非常に多いです。こうしたテーマの読者は、イーブックを読むことに慣れているのだと思います。


2019年のコレクションで扱われる主なテーマや新たなトピックは?

2019年のコレクションでは、2007~08年の金融危機がもたらした影響を引き続き取り上げています。ブレグジット、サステナビリティ、アジア経済、フィンテックも扱います。開発経済学、経済思想史、経済史と同様に、地域経済学も引き続き重要なテーマです。新たなトピックとしては、海洋経済学と金融規制が挙げられます。また、2018年1月に第3版が出版されたThe New Palgrave Dictionary of Economicsは、3,000以上の章と36人のノーベル賞受賞者の寄稿で構成されています。これもコレクションに加わります。


人気のタイトルを教えてください。予想外に人気な領域やタイトルはありますか?

フィンテックに関する書籍は、ダウンロード数でも特に上位を占めています。2018年は「The Future of Fintech」や「After Brexit」などのタイトルが年間を通じて常にトップ10に入っていました。2017年に行動経済学者がノーベル経済学賞を受賞したこと、また、Choice誌のOutstanding Academic Titleに選ばれたことから、「Nudge Theory in Action」も頻繁にダウンロードされました。リスクマネジメントと銀行危機をテーマとしたものも目立ちます。今なお業界が世界金融危機の影響への対処に追われている中、これら分野の書籍は今後数年間にわたって高い需要が見込まれています。個人的に驚いたのは、Alfred Marshallの「Principles of Economics」で、昨年1年間で最もダウンロードされたタイトルの一つでした。古典的なテキストなので、多くの読者に読まれるだろうと予測はしていましたが、出版されたのは2013年ですから、現代の経済学者が今なお先駆者的な研究に価値を見出していることを表している例でしょう。


主な著者と執筆依頼のプロセスについて教えてください。また、International Economic Association(IEA)などの組織はコレクションの中でどのような役割を果たしているのでしょうか?

著者は素晴らしい経歴を持ち、その分野で権威のある方ばかりです。これまでにAlfred Marshall、Arthur Pigou、Joan Robinson、John Maynard Keynesといった名だたる経済学者の著書を出版してきましたが、今後も引き続き各分野で最も著名な研究者の著作を出版していく予定で、Cass Sunstein、Kaushik Basu (世界銀行の元チーフエコノミスト)、Robert Skidelskyのほか、ノーベル賞受賞者であるJoseph Stiglitz、Paul Krugman、Ronald Coase、さらに今最も有力な若手研究者などを予定しています。
IEAと当社の関係は50年以上におよびます。今年はGeorge Mason Universityの有名なMercatus Centerと新シリーズに関する契約を締結し、これによって、オーストリア学派に属するトップクラスの研究者が執筆した優れた著書を新たに出版していく予定です。


経済学・金融分野のブック・アーカイブの重要性について聞かせてください。

今日における多くの新たな経済学研究や経済学的考察の背後には、元となる理論・実証を活かせることが基本的な要素としてあります。ですから、2005年以前に出版されたアーカイブ・コレクションのタイトルは当社の研究コレクションの中で重要な位置を占めています。ブック・アーカイブプロジェクト2)により、1950年代まで遡ったIEA会議録のフル・アーカイブを電子版として出版することができました。Bookmetrix 3)を見ると、電子版が頻繁にダウンロードされていることが分かります。規制やテクノロジーなど、変化の速いトピックを除き、当社の書籍の多くは比較的長期間にわたって利用されています。


書籍のフォーマット、出版技術、読者とタイトルとのかかわり方という点で、経済学・金融のイーブック・コレクションは今後5年間でどのように進化していくと思いますか?

読者の需要が高いので、テキストブックとハンドブックの出版は増えていくと思います。モノグラフ、Contributed Volume、小冊子形式のPalgrave Pivot、専門書(professional titles)についても、引き続き注力していきます。シュプリンガー・ネイチャーはPalgrave Macmillanから受け継いだ領域を広く網羅して出版することを目指しています。マクロ/ミクロ経済学、政治経済学、開発経済学、経済学/金融史は当社の大きな強みですが、同時に、新たな領域をも開拓し、応用経済学(農業経済学、環境経済学、教育経済学など)、フィンテック、より学際的なサブフィールドにも今後も引き続き注力していきます。
今後数年間で、Economics and Financeイーブック・コレクションには電子版やインタラクティブな要素がさらに取り入れられていくことになると思います。お伝えした通り、学術書の発展には驚くほど多くの考察や研究が活用されています。今後、学術書がどのような形になるのか、どのような読み方をされるのか、影響力をどう測定するのか、といった問題が模索されています。今後の進展にご期待ください。


注記

1) SpringerLink上で、イーブックの画像にあるキャプションをクリックするとビデオをストリーミングで視聴できるほか、SN More Mediaというアプリを用いて書籍内の"Play"ボタンのある画像にかざすと動画がスタートするサービスを提供。→ SN More Mediaについてさらに詳しく

2) 2014年1月に完了した電子化プロジェクト。旧製品名はシュプリンガー・ブック・アーカイブ(Springer Book Archives)、現在はシュプリンガー・ネイチャー・ブック・アーカイブ。本プロジェクトは4年にわたり、この取り組みで電子化されたのは2005年より以前に出版されたSpringerの書籍およそ11万点(うち英文書籍5万6000点)。→ Springer Nature Book Archivesについてさらに詳しく

3)    書籍のインパクトを測る新しい指標。Bookmetrix(ブックメトリクス)は、SpringerLink上で書籍やチャプター単位でのオンライン上の被引用数、ダウンロード数やオルトメトリクス指標を一覧できるサービス → Bookmetrixについてさらに詳しく