レファレンス・ブックス:今日の研究との関連性と今後の展望

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シュプリンガーネイチャーの出版プログラム紹介の一環として、レファレンス・ブックス担当バイスプレジデントのAnil Chandy、および編集部のMichael HermannとRuth Lefevreと共に話を聞き、レファレンス・ブックスの今後の見通しと図書館や研究者に与える影響について尋ねました。なお、シュプリンガーネイチャーではレファレンス・ブックスをMajor Reference Worksとも呼んでおり、ここではMRWと表します。

Major Reference Works(以下MRW)の主な読者層を教えてください。

読者は大学院生から研究者、教職員、学部生まで多岐にわたりますが、その誰もがある分野、テーマ、コンセプトに関する専門的な、検証を経た信頼できる総覧を必要としています。MRWプログラムの主要タイトルの一つであるThe New Palgrave Dictionary of Economics(DoE)は当初、大学院生レベル以上を対象に刊行されました。しかし、向上心のあるビジネス専攻の学部生にも非常に多く利用されていることが過去10年の実績から明らかになっています。

シュプリンガーネイチャーのMRWタイトルの75%以上が従来のSTEM分野(科学・技術・工学・数学)に該当しますが、最新の研究分野を反映したテーマを扱うタイトルも増えています。2015年の合併以降、Palgrave MacmillianとSpringer Referenceのポートフォリオが統合されたことにより、シュプリンガーネイチャーのMRWプログラムで扱う分野は大幅に拡大しました。事典、ハンドブック、辞書、アトラスを含むレファレンス・ブックは、STEM分野に加え、今では人文科学や社会科学のあらゆる分野に対象を広げています。

近年のMRWの利用傾向はどのようになっていますか。

ウィキペディアなど無料のオンライン情報源がちまたにあふれていますが、学術的なレファレンス・ブックの需要は根強く、高い利用頻度やその他のオルトメトリクス指標にもその傾向が表れています。過去数年間、MRWは常にSpring Nature eBookのポートフォリオ全体の中で最もダウンロードされているブックタイプの一つです。例えば、Human-Computer Interactionに関する記事の週間ダウンロード数は数千回を記録しています。

レファレンス・ブックはめったに引用されることはないと思われがちですが、実際はその逆で、このタイプの書籍が新しい研究に継続的に強い影響を与えていることがわかっています。SpringerLinkにリアルタイムで表示されるデータは、MRWの引用数が刊行から何年経過しても増え続けていることを示しています。1つの事典が数百回引用されていることも珍しくありません。ある1つの章――The Encyclopedia of Critical Psychologyは、この記事を書いている時点で21回引用されています。

レファレンス・ブックは、複数の出版形態による展開に加え、多様な読者のニーズのバランスをとる必要があります。このタイプの資料は、一つ一つの情報の内容と、より深い分析の両面で重宝されています。先進的研究者のニーズに応えると同時に、科学者や研究者があるテーマを学ぶ入口となる有益な情報源としての役割も果たす必要があります。また、ウェブ上のオープンソースは学術コンテンツの代わりではなく、その補完的な情報として使われることがわかっています。ピアレビューを経た著名なレファレンス・ブックに依存する傾向が相変わらず強いことが、ダウンロード数や引用数のデータにも表れています。

冊子版からオンラインへの移行はMRWにどのような影響を与えていますか。現在、読者はレファレンス・ブックをどのように利用していますか。

シュプリンガーネイチャーは現在、レファレンス・ブックをLiving Reference(リビング・リファレンス)、イーブック、冊子版という3つの形態で制作しています。Living Referenceの最新性には大きな魅力がありますが、数年前に遡るデジタルアーカイブコンテンツにも継続的な需要があり、刊行から時間が経ったレファレンス・ブックが新しい研究への影響力を保っていることがわかります。 

SpringerLink で展開しているLiving Referenceは、図書館、研究者、著者にとってゲームチェンジャーといえる画期的なものです。図書館の立場からは、無数の読者に対し、その所在地にかかわらず、ピアレビューを経た最新のレファレンス資料への常時アクセスを提供できます。機関で購入いただくと、、Living Referenceの利用が可能になります。図書館は教員から研究者、学生まで利用者全員が随時更新される最新のコンテンツに同時にアクセスできる状態を確保できます。また、SpringerLinkのコンテンツはDRMフリーであるため、利用者は自分の端末からすべてのレファレンス・ブックにいつでもアクセスし、ダウンロードし、印刷や保存もすることができます。

研究者は専門分野の豊富な補完コンテンツを備えたレファレンス・ブックから得た情報をすぐに活用でき、その情報はすべてSpringerLinkのプラットフォームで提供されます。また、Living Referenceは随時更新されるため、テーマ別の最新動向に基づく新しい資料をいち早く利用できます。Living Referenceの特長を持つレファレンス・ブックは絶えず変化しているため、固定テキストというよりもシリーズ物に近いものです。Living Referenceに寄稿する著者も増えていることから、研究者は特定分野に関する、より幅広い進化し続ける見方や考え方を研究に生かすことができます。

SpringerLinkへの移行によってDictionary of Economicsはどのように改善されましたか。

シュプリンガーネイチャーはコンテンツへのアクセスやインタラクションにおいて最もユーザーフレンドリーな体験を提供するというグローバル戦略を掲げています。その一環として2017年、The New Palgrave Dictionary of EconomicsがSpringerLinkのプラットフォームで提供されることになりました。より優れた検索機能、より速いダウンロードスピード、よりわかりやすいインターフェースによってユーザー体験が向上しただけでなく、読者が同じプラットフォームにある数千に及ぶタイトルを自らの研究に役立て、随時更新されるレファレンス・ブックのメリットを享受できるようになりました。また、SpringerLinkがBookMetrix などのアプリケーションを導入したことによって、引用数などの追加データも利用できるようになりました。

MRWの今後の展望を教えてください。

私たちは日々学び続けながら編集技術やワークフローを調整することによって、読者が現実に抱える問題の解決を図っています。レファレンス・ブックの将来には明るい展望を抱いています。フレキシブルなコンテンツに加え、信頼できる総合的な情報にも引き続き高い需要があります。読者の習慣やニーズを捉えたコンテンツの進化が不可欠であり、こうしたニーズに対応する技術への投資は増えると見込まれます。機械学習はコンテンツの構造的品質と発見可能性を高めるとともに、出版と流通のプロセス全体を円滑化する大きな機会をもたらします。

今後も長きにわたって紙の書籍は存在し続け、数年前に予想したようにその役目を終えることはないという期待もあります。しかし、デバイスや読書・執筆習慣の変化に伴い、イーブックは今後も進化し続けるでしょう。

MRWの将来は、出版元を気にしない情報探索者のニーズや習慣と、学術コンテンツ制作者側の取り組みをいかに調和させるかにかかっていると編集チームでは考えています。時間が経つにつれ、両者のギャップは縮まると思います。

これを促すには、メタデータの精度を上げ、読者のニーズに対応し続けることにより、コンテンツの利便性と発見可能性を高めなければなりません。短中期的にはモノグラフとテキストブックのインタラクティブ性が格段に高まり、従来のレファレンス・ブックの一部として、動画シミュレーションソフトウェアやその他のマルチメディア形態が大幅に増加すると見込まれます。

学術交流が一層社会性を帯びている点もしっかりと意識する必要があります。研究者がもっと幅広く情報を共有し連携できるような技術やコンテンツ形態の開発が不可欠です。つまるところ、変化し続ける読者の習慣やニーズに対応した取り組みを行わなければならないということです。
 

Anil Chandy, VP, Major Reference Works.


Major Reference Works (Springer Reference and Palgrave Reference) Quick Facts:

  • 800+ Encyclopedias, Handbooks, Atlases and Dictionaries on SpringerLink
  • All Subjects:  STEM + HSS
  • 480,000+ chapters and entries
  • 100,000+ Authors, Section Editors and EICs


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