研究公正

学術記録の公正性と正確性を維持するために行っている活動や投資について、その透明性の確保に向けた取り組み

シュプリンガーネイチャーは、2024年には、48万2,000報以上の質の高い一次研究論文を出版しました。これらの研究論文が信頼できるものであり、知識の向上および世界で最も困難な課題への対処に向けて、次の研究の礎として利用できるよう保証することは、当社の最優先事項です。

研究を取り巻く状況は、新たなテクノロジーの登場により日々進化しており、いかにして研究の正確性を維持するかという課題への関心はますます高まっています。このページでは、当社出版物の公正性にかかわるデータの透明性を提供し、科学出版に期待される質の確保に向けた投資や取り組みについて説明するとともに、考えられる対策や実際に講じられている措置について紹介します。当社の編集方針や、研究公正に関するトレーニングを受けた編集者を支援するリソースの詳細は、こちらをご覧ください。

「当社には、出版されるコンテンツの公正性について全体的な責任を負う専任チームがありますが、公正性の確保は、シュプリンガーネイチャーの事業運営の中心となるものです。公正性の保証に関する責任は、投稿から出版にいたる出版プロセスをサポートする私たち全員だけでなく、投稿前に公正性の問題に気づく論文の著者、投稿論文の精査を行う編集者や査読者、誤りが含まれたまま出版されてしまう数少ない論文を見つけて、協力してくださる広いコミュニティーの皆さんにもかかっていると考えています。こうした責任を、出版のエコシステム全体で共有することにより、学術研究の信憑性が確保されるのです。シュプリンガーネイチャーは、グローバル出版社として、オープン性、透明性、および協力を重視しており、このページでは、当社が関係するコミュニティーとともにどのようにして科学的記録を維持しているのかを示すことを目的としています。」

Harsh Jegadeesan(ハーシュ・ジーガディーザン)、Chief Publishing Officer

Harsh Jegadeesan

研究論文の信頼性の確保 — 出版プロセスの複数の段階に公正性チェックが組み込まれています

2024年、シュプリンガーネイチャーには230万を超える論文が投稿されましたが、そのうち出版されたのはおよそ48万2,000報に過ぎません。信頼性のある質の高い研究論文を出版するため、編集および出版のプロセスに、複数の公正性チェックが組み込まれています。こうしたチェックを支えているのは、AI(Artificial Intelligence;人工知能)ツール、高度な専門性を有する研究公正チーム、そして編集者たちです。研究論文は、公正性または編集上の理由により、出版プロセスの複数の段階で却下(リジェクト)される可能性があります。下図は、出版記録の公正性を確実に守るために、研究論文が投稿後さまざまな段階を経てふるいにかけられる、その概略を示したものです。

Integrity funnel © Springer Nature

2024年には、過去、または最近出版された研究論文のうち、2,923報が撤回されました。撤回された論文の61.5%(1,797報)は、2023年1月より前に出版された論文で、不正な学術記録を一掃する当社の取り組みを通じて発見されたものです。また、残りの38.5%(1,126報)は、2023年1月以降に出版された論文です。なお、2023年1月以降に出版され、撤回されたコンテンツのうち、オープンアクセス(OA;Open Access)論文は半数未満(41%)でした。


自動チェック / Automated checks

論文が編集者の手元に届く前に、当社の投稿プラットフォームがフィルターとして機能し、AIツールの支援のもと、多数の一次品質チェックが自動で行われます。これには、重複投稿や撤回された文献の引用チェック 、AIが生成したナンセンスな記述の検出が含まれます。こうした自動チェックにおいても、最終的な判断は、人間の確認を経て行われます。

一次品質チェック / Initial quality checks

当社のジャーナル編集部は、初期の校正段階で、図、引用、参考文献および表の位置やキャプション、また、それらが本文中言及されているのに記載が漏れているなどの点について、さらに倫理声明、利益相反の申告 、著者の貢献、臨床試験や、資金提供者に関する情報など初期校正段階で各種確認を行っています。

ご存じでしたか?出版前の段階で 2024年に当社の研究公正専門チームによって問題があると判断された出版前論文は、8,000報以上に及びます。これらの論文は、編集者および査読者によるチェックに加え、その前に実施される、強化された出版前の一次品質チェックプロセスで特定されました。一連の新たなAIツールの導入により、出版前の一次品質チェックのサポートがさらに強化されましたが、こうしたチェックは必ず人間の監督下で行われています。

編集者による一次審査 / Initial editor assessment

シュプリンガーネイチャーは、社内の編集者だけでなく、世界中で17万4,000人以上の高度な専門知識を持つ 社外の学術誌の編集者と協力しています。社外編集者は、一次審査に携わり、研究の対象範囲、新規性、盗用・剽窃の有無、および画像改ざんなどのチェックを行っています。

査読および編集者による決定 / Peer review and editorial decision

査読(Peer review;ピアレビュー)は、科学的プロセスの重要な一部です。当社は、120万人以上の高度な専門知識を持つ査読者と協力し、学術研究の質および公正性の評価しています。査読の後には、最終的な編集判断が行われ、 出版の可否が決定されます。この時点で公正性に問題がある場合は、高度な専門性を有する研究公正チームによる追加チェックが要請され、対応が行われます。

出版後の精査 / Post publication scrutiny

出版とは、研究成果をより広く学術コミュニティーに伝えるプロセスであり、 その知見がさらに発展していくための基盤となります。その結果、論文は多くの専門家の目に触れて広く精査されることになり、ときには、同じ分野を含む研究者、研究不正を調査する専門家、著者自身などによって懸念が指摘されることもあります。そのような場合には、当社の研究公正専門チームが調査を行い、必要に応じて撤回を含めた編集措置が講じられます。

著者、編集者、研究コミュニティーへの支援

17万4,000人以上の学術誌編集者と120万人以上の独立した査読者と協力し、厳密さと卓越性への取り組みを共有しています。

当社は、出版記録の保護、問題のあるコンテンツを除外するツールの提供、厳密さおよびグッドプラクティスの実施に向けた科学コミュニティーへの支援など、研究サイクル全体を通して、公正性の促進に尽力しています。こうした取り組みの推進力となっているのが、当社の専門知識および人材とテクノロジーへの多大な投資、ならびに、業界内での協働とリーダーシップです。当社の編集者は、それぞれの分野における専門家であり、ジャーナルの品質と研究公正を確保するために、その知識と時間を惜しみなく費やしています。


RIG logo

シュプリンガーネイチャーの研究公正専門チーム

当社の研究公正グループは、研究公正に関する問題の防止・解決および研究公正の支援・促進に専心しており、当社編集者や査読者、著者にも、研究・出版におけるベストプラクティスと倫理的行動について助言をおもな役割としています。チームは、最新のテクノロジーを活用し、論文に含まれる捏造や改ざん、盗用などを見つけ出しています。この作業に各種のツールが役立つこともありますが、中心となるのは常に人間による監視です。

In Conversation

コミュニティーとの協力

科学コミュニティーにおいては、科学における不正行為の可能性を調査し、探し出し、特定する、研究公正関連の研究者や研究不正を調査する専門家が増えています。こうした人々は研究者の意識を高めるうえで非常に重要な役割を果たしており、シュプリンガーネイチャーは、彼らと協力して科学文献の質の保護および確保を行っていきます。当社のChief Scientific Officer、Ritu Dhand(リトゥー・ダーンド)とElizabeth Bikの対談を、こちらからご覧ください。

Snapp

最新のテクノロジーの利用

当社は、品質管理チェックだけでなく、AIなどの最新テクノロジーへの投資を通じて、研究におけるベストプラクティスを支援するとともに、非倫理的行為の検知に役立てています。当社ではGeppetto、SnappShotそのほかのAIツールを導入しており、社内の専門家の知識に加えて、これらのツールを使って編集品質チェックを支援しています。さらに、最近買収したSlimmer AIのサイエンス部門も、盗用検出における自動チェック機能の向上などに貢献しています。また、当社の次世代査読システム、Snapp(Springer Nature Article Processing Platform)についても、システム全体としてチェック機能を強化しており、潜在的な利益相反の潜在的な特定および管理など、問題のある研究を見つけ出す方法の効率化を図っています。当社では、発見を促し、公平性を推進し、公正性を守るうえで役立つソリューションを、引き続き拡充していきます。

transdisciplinary collaboration

業界内での協力

シュプリンガーネイチャーは、より良い研究実践の推進および支援に向けて、業界内で積極的に発言しています。COPE (Committee on Publication Ethics;出版倫理委員会)のメンバーとして活発に活動しているほか、研究公正を守る出版社主導の取り組み、STM Integrity Hubの設立においても、重要な役割を果たしました。STM Integrity Hubについては、当社の社員が、ガバナンス委員会の議長を務めるなど、その運営において中心的な役割を担っています。また、テクノロジーに関する知識や製品をコミュニティーと共有し、皆がその恩恵を受けられるようにしています。

Nature Masterclasses

トレーニングおよびワークショップ 

当社は、著者、編集者および研究者向けに、研究公正に特化した Nature Masterclassコース『Research Integrity: Publication Ethics(研究公正:出版倫理)』や『Research Integrity(研究公正)』の入門編などのオンライン教材を無料で公開しています。また、研究のより良いプラクティスを推進するために編集方針も策定しており、研究者がデータを共有し、研究の透明性と再現性を向上し、引用の多様性を高め、責任ある著者資格の推進を奨励しています。また、教材以外にも、研究公正に関するトレーニングの必要性への理解を深めるため、一連の世界各地で行った調査や研究者主導のプロジェクトを通じて、関係するコミュニティーに積極的に働きかけ続けています。

研究公正に関わる問題事例

研究公正に関わる事例は、下記のようないくつかの理由によって起こる可能性があります。

  • 悪意のない、単なる誤り:研究者の意図は、正直かつ倫理的であったとしても、その研究者自身もしくは他の研究者が、研究論文の誤りに気付くことがあります。その場合、必要に応じて、撤回または修正が行われますが、中には著者自身の申し出によって撤回または修正が行われることもあります。
  • 公正性基準の違反:一方で、例えば、データの改ざん、虚偽の著者資格の表記、盗用、画像の改ざん、および職業倫理規定に関連する公正性違反など、非倫理的な方法で研究が行われた、あるいは、結論が導き出されたことが発覚する場合があります。中には、特定のジャーナルを標的とし、編集プロセスを組織的に操作しようとする場合もあります。
  • ペーパーミル(Paper mills;論文工場):ペーパーミルとは、完全に捏造されていたり、虚偽のデータを含んでいたり、大量に盗用していたり、また、その他の面で非倫理的であったりする不正な研究論文を作成し、その著者資格を販売する商業組織を指します。

問題事例の可能性が見つかった場合に取られる措置

問題事例が見つかった場合、当社の研究公正専門チームが、以下のとおり対応します。

  • Committee on Public Ethics(COPE)のベストプラクティス・ガイドラインに則り、徹底的な調査を行います。 
  • 必要であれば、出版後の査読を実施します。
  • 著者および、必要に応じ所属する機関にも連絡します。著者には、共同著者と協議し、詳細な回答を準備する時間が必要であるため、このプロセスは時間を要する可能性があります。データ分析や他の証拠の評価のため、外部の専門家の協力が必要になる場合もあります。
  • すべての段階を監督して、一貫性を確保するとともに、問題が解決するまでの間、継続的な支援を提供します。
  • 編集に関する最終決定の責任を負っているジャーナル編集者に対して、助言を提供します。

事例によってその規模や複雑さはさまざまであるため、対応にかかる時間もそれに応じて異なります。

研究公正専門チームの役割と研究論文に問題が検出された後の対応

十分な調査の結果、研究公正上の問題が確認された場合には、以下の対応措置が検討されます。

修正 / Corrections

著者またはジャーナルによる重要な誤りが、出版論文の科学的公正性、出版記録、および/または、著者ないしジャーナルの評判に影響を与えている場合、その誤りを正すために、修正が行われます。ただし、研究の結論自体を覆すものではありません。

補遺 / Addendum

補遺は、論文出版後、論文の理解に重要な追加情報が明らかになった場合に発行されます。

問題提起 / Matters Arising

出版後に寄せられた正式なコメントで、出版された研究成果に対して、 異議を唱えたり、明確な説明を求めたりすることがあります。そのような解説は、査読を経て、問題提起(Matters Arising)として、著者からの返答(Reply)とあわせて オンライン上で出版されることがあります。問題提起は、査読が行われるとともに、ジャーナルが求める出版基準を満たしたものだけが出版されます。提起された問題が重大であると判断された場合には、明確化のための説明文、修正、編集者による懸念表明(Editorial Expression of Concern)、撤回など、さらなる措置が取られる場合もあります。

編集者注 / Editor's Note

編集者注(Editor's Note)は、出版論文への懸念が提起された場合、その調査にジャーナルが着手したかどうかを知らせる通知です。オンラインのみで更新される情報で、最終公開版のHTML版に対してのみ出されます。インデックスされません。

編集者による懸念表明 / Editorial Expression of Concern (EEoC)

編集者による懸念表明は、公正性に影響を与える重大な懸念が出版論文にあることを知らせ、読者に注意を促すために発行します。EEoCは、オンライン上で公表され、出版論文と相互にリンクされます。DOI(デジタルオブジェクト識別子)が付与され、PubMed、Web of Science、Scopusなどの主要学術データベースにもインデックスされます。EEoCは、暫定的な措置として、また、 最終措置としても発行されます。

編集者注記またはEEoCの発行は、読者に最新情報を提供するとともに、長期に及ぶ可能性がある研究公正の調査が現在進められていることを知らせる手段として、Committee on Publication Ethics(COPE)によって推奨されています。調査が完了し、訂正や撤回などの正式な対応に置き換えられることが一般的です。

撤回 / Retraction

撤回は、論文を修正する中立的な手段です。論文の公正性が著しく損なわれている場合や、研究倫理に反する行為があった場合に行われます。著者自身が問題に気付き、自発的に撤回を申し出ることもありますが(事実、多くの撤回が著者自身の申し出に端を発しています)、最終的な判断は編集者が行い、研究公正チームの助言にもとづいて決定されます。しかし、最終的には、撤回は必ず編集者の判断によって決定されます。撤回がCOPE(Committee On Publication Ethics)などの業界団体が定めた指針に則って実施されます。