Textbooks

シュプリンガーネイチャーは定評あるテキストブックを数多く出版し、学生、ポスドク、および専門家向けに多岐にわたる分野を展開しています。

シュプリンガーネイチャーのテキストブックは教育目的での共有利用が可能なコレクションです。世界中の教育者がイーブックをそのまま教科書やコースマテリアルに採用し、電子版ならではの機能を便利に活用しています。


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教育にも使えるイーブック・コレクション

  • 学生の費用負担を軽減:機関で購入したイーブック・コレクションは授業での利用可
  • 様々なブック・タイプ:テキストブックはもちろんのこと、イーブック・コレクションはブックシリーズ、モノグラフ、一部のハンドブックなどを包含
  • 簡易印刷版MyCopyが利用可能:イーブック・コレクションを購入している機関の利用者は冊子版が3,169円で入手可能
  • PDFやePUBファイルに制限なし:デジタル著作権管理(Digital Rights Management)のついていないフルテキストはコンテンツの利用価値を最大化

図書館と学部教員の緊密な協力により、イーブックの利用が広まった経緯とは

Lisa  Petrachenko

リサ・ペトラチェンコ

ビクトリア大学図書館大学司書補佐(学習・研究リソース担当)

ビクトリア大学図書館で大学司書補佐を務めるリサ・ペトラチェンコ氏から、図書館のサービスや蔵書コレクションを広報し、同大学にイーブックを導入することに成功した経緯と、電子コンテンツをはじめとする学習リソースを学生が利用しやすいように各学部が協力して取り組んでいること、さらには教科書のオンライン化による学生の変化についてお話をうかがいました。

10年前にライセンスを取得したイーブック・コレクションの利用が増加

ビクトリア大学は2016年に初めてシュプリンガーネイチャーのSTM(科学・技術・医学)コレクションを導入しました。それ以降、同大学の図書館は理工系や芸術・人文科学、社会科学全体に及ぶ幅広い分野のコレクションを大幅に増やしてきました。過去10年間、大学がイーブックに多額の投資を行うためには、利用できるタイトルを広く知らせ、全ての学生が入学初日から必要とする文献を簡単に利用できるよう、図書館と教員が緊密に協力する必要がありました。現在、同大学ではあらゆる分野において数多くのイーブックがダウンロードされており、その利用件数はライセンスを取得した10年前から99%増加しています。

ビクトリア大学図書館での業務と、近年のイーブックの利用動向についてお話しください。

私は大学司書補佐として、学習・研究リソースを担当し、イーブック購入部門とメタデータ部門も含む、紙媒体と電子媒体のコレクションの管理業務を統括しています。さらに職務の範囲内で、研究に関する相談や指導、科目別のコレクション作成を担当するリエゾンライブラリアンと緊密に協力しています。

現在の職に就くまでは、(カナダ国内のコンソーシアムであるCRKN‐コンテンツ戦略委員を務めつつ)イーブックの購入・電子リソース担当司書を12年間務めていました。したがって長年、ライセンシング業務に携わってきたことになります。その間、私はライセンス・ビジネスが拡大する状況を注視しつつ、オープンアクセスの増加に伴うライセンスの変遷と、コンテンツの入手可能性とアクセスビリティに関する学生の期待がどのように変化するのか注目してきました。これについては、過去数年間に多くの変化が起こっています。また、図書館に対しては、コンテンツにただちにアクセスできるようにし、私たちにとっての現在の課題であるバリアフリーを可能な限り実現できる独創的なソリューションを求める声が高まっています。ご存じのように、質の高い文献の制作にかかるコストはもちろん、研究者の時間や文献の保存と普及に伴うコストも発生します。問題は「そのコストはどうあるべきなのだろうか?」という点です。

学生に関していえば、教材費への対応を求める声があがっています。またここ数年の間には、キャンパスにおいて、(ライセンス・コンテンツに対する)意識が向上し、教員が安価なオプションを求める動きがありました。当館では、これらの声に応えるため、学習・教育支援・イノベーショングループ(LTSI)やビクトリア大学学生ソサエティ(UVSS)などの他の部門と協力し、オープン教育リソース(OER)の開発に向けた補助金を提供しています。当館が初めてシュプリンガー(当時)の工学分野のイーブック・コレクションを購入した時、学生がMyCopyという簡易冊子体をわずか24.99ドルで注文できると知った工学部の教員から、大きな喜びと驚きの声が寄せられました。当館は、シュプリンガーのイーブックをリリース直後からいち早く採用してきました。私はユーザー数に制限を設けず、フルテキストにデジタル著作権管理がない同社のイーブックを、他の出版社が見習うべきモデルとして常に紹介してきました。コンテンツに不必要なバリアや制限を設けることにはまったく意味がないと私は考えています。

当館で、2006年に最初に導入したシュプリンガーのイーブックは、医・理工系 (STEM)のコレクションです。その後、人文・社会科学分野へのアクセスも可能にしたいと考え、パルグレイブ・コレクションを購入しました。パルグレイブ・コレクションは後にシュプリンガーネイチャーに統合され、現在では、全ての学術分野にわたり幅広い領域を網羅したコレクションを保有しています。あらゆる分野の幅広いコレクションを保有していることが非常に重要な意味を持つのです。

現在では、図書館の全ての書籍がオンラインに移行したのでしょうか?

現在、当館が所有するシュプリンガーとパルグレイブの書籍は、全てオンラインのみに移行しています。また「冊子体承認計画」を策定しており、それにより年間の冊子体購入数は減少しつつあります。一方、イーブックは増加しています。現在、当館が購入するイーブックの総数は、10年前に購入した冊子体の総数を上回ろうとしています。書籍のオンライン化が進んでいますが、現在はこれがユーザービリティに与える変化にも注目しています。当大学の通信教育を受講する学生の数は年々増加しており、イーブック・コレクションを利用すれば、通信課程の学生の利便性を大幅に改善し、これまで以上に柔軟に対応することができるようになります。

数千冊に及ぶイーブック・コレクションを購入し、ただちに利用可能とするのは比較的簡単なことです。また利用状況をモニタリングし、費用対効果(ROI)を示すこともできます。とはいえ、書籍が与えるインパクトが高まるには長い時間を要する場合があること、そして初年度にすぐ利用があがるわけではなく、導入から2~5年してから利用が増えるという事実を念頭に置いておかなければなりません。重要なのは、イーブックを広報することは、冊子体よりもはるかに簡単であるということです。ソーシャルメディアへのリンクの掲載など、簡単な作業で利用状況に大きな影響が生じます。現在では、イーブックが人々の目に止まるようにするため使えるオプションが大幅に増えています。

利用統計をどのくらいの頻度でモニタリングしていますか? 図書館が学部教員と協力してイーブック・コレクションの利用を推進している方法を教えてください。

当館には、シュプリンガーネイチャーのアカウント・デベロップメントマネージャーであるメラニー・マッセラント氏が定期的に来館し、全コレクションの大規模なレビューを年1回実施しています。このレビューにより、最も利用が多い分野を明らかにします。ある書籍が講座に採用されると、それをきっかけに採用数と利用数がまたたく間に増加します。(特に工学部の)教員は、イーブック・コレクションから何らかのタイトルを教科書採用した場合、学生が書店で冊子体を高額で購入する必要がなくなり、高いメリットが得られると考えています。また当館ではリエゾン・ライブラリアンプログラムを実施して、各学部に専門司書を配しており、特定のコレクションやブックタイトルをこれまで以上に集中的に宣伝することが可能となっています。

図書館が教員と協力してイーブック・コレクションの利用を推進している方法を教えてください。

当館では大型イーブック・コレクションの購入を開始して以降、講師や教員と直接協力し、利用可能なイーブックを広報し、露出を増やす方法を探ってきました。現在では、教員は意欲的に図書館と直接関わり合い、各々のコースマテリアルにリンクを掲載するなど、自らイーブックを積極的に宣伝しています。当館の著作権・学術コミュニケーション担当司書は全ての教員に対し、学生向けに高価なコースパックを作成する必要はないというメッセージを熱心に送り続けました。現在、当館ではイーブックをライセンス契約して、教員が各々のコースマテリアルから教科書へのリンクを張り、シラバスをオンラインで作成して学生が利用しやすい体制になっています。シュプリンガーのイーブック・コレクションを契約していなければ、ここまで実現しなかったでしょう。この変化は当館だけではなく、教員にとっても重要な意味を持ちました。教員は、推奨する書籍へのリンクを学生に簡単に送ることができるようになりました。また、アクセスしやすくなったことから、教科書に積極的に触れる学生が増えたことも間違いありません。これらは全て、図書館と教員による多大な努力と協力によって成し遂げられたものです。このような意識の変化は一夜にして起こるものではありません。全ての教員が同じ方向を向いているとはいいませんが、それでも変化が見えはじめているのは事実です。オープン教育リソースにおいて大きな成長が見られるものとしては、教科書に関連する補足資料(クイズ、宿題など)が挙げられます。これもまた学生の積極的な参加に大きな影響を与えている要素のひとつです。

現在では学生がオンラインでアクセスできる書籍が増えていることで、学生の教科書への向き合い方に変化は見られるのでしょうか?

はい、間違いなく変化が見られます。チャプターをダウンロードできるようになり、あるいは教科書中に各チャプターへのリンクが張られて容易に遷移できるようになったことで、学生が書籍にどう向き合い、どう読むかが変化しました。特に学部生は、文献を詳しく調べ、キーワード検索ができるようになったことを歓迎しています。書籍を最初から最後まで通読する学生は減ったように思いますが、その代わりにキーワードで検索し、関連するセクションに重点的に目を通すようになっています。この閲覧方法と、書籍/教科書を通読する方法とを比較した場合の理解度の違いは、まだわかりません。とはいえ、さまざまな情報源から使用する部分を選択・抽出する教員も増えています。彼らは複数の書籍から複数のチャプターを選択し、これらをまとめて教材を作成していますが、そうすれば、学生は全ての書籍を購入する必要はなくなります。

イーブックが増えると、コースマテリアルを積極的に利用する学生も増えてくると強く思います。以前の学生には、書籍を自分で購入するか、図書館で探すしかなく、その場合誰かが借りていれば、その書籍を読むことはできませんでした。現在では、わずか数分間で関連する文章を検索して発見することができるようになっています。そしてシュプリンガーのようなイーブック・コレクションがあれば、同時アクセス制限を心配する必要は全くなくなります。

イーブックができるだけ簡単に見つかるよう、当館は書籍のメタデータを改善し、強化する必要があります。データの質が改善されるほど、それぞれのタイトルを発見・アクセスしやすくなります。現在の学生は、オンラインで自力で作業することに慣れているので、自身の研究のために図書館に出かける必要が少なくなっていると思われます。そのため、現在では学生による検索を記録し、正確な検索結果を返すため、メタデータの重要性が大きく高まっています。それでもまだ、司書が研究者に伝えなければならない新しい知識は数多く残っています。したがって図書館と教員、学生が互いに関わりを持つことがいまなお極めて重要です。だからこそ私たちは多くの時間を費やし、その関係を深めるようにしています。

イーブック・コレクションを幅広く導入して以降、図書館と書店との関係はどのように変化したと思いますか?

キャンパスでは、オープン教育リソースワーキンググループを設立しています。このグループには、図書館と学習・教育支援・イノベーショングループ(LTSI)、書店が参加しています。書店は、グループ発足時からの中心的なメンバーです。書店員は、状況が変化しつつあることを理解しており、実際にオープン教育リソースに強い支持を表明しています。書店を通じて販売する書籍でも、リースやアクセスコードを利用したデジタル版の割合が増えています。そして書店は、大学出版局と連携して新たな収益モデルを自ら積極的に模索したり、新たな成長分野を模索したりしています。彼らはオープン教育リソースを通じた私たちの取り組みを強く支持してきましたし、実際に意見が対立することはさほどありませんでした。

その他の重要な点としては、当館では通常、教科書を蔵書として購入しないことが挙げられます。教科書は短期間で時代遅れになってしまうことが主な理由です。当館では教員の個人用の教科書を保管できるシステムで、学生はそれを利用できますが、アクセスは明らかに制限されることになります。通信課程の場合、当館ではなるべくイーブックを購入することにしています。というのも、キャンパス外から多くの人々がイーブックにアクセスする必要があれば、財務面からも理にかなう方法であるからです。シュプリンガーのイーブック・コレクションは非常にアクセスしやすく、しかもDRMフリーであるという事実は、大きなメリットです。

利用可能なイーブック・コレクションをどのように広報していますか?

図書館と各学部、リエゾンライブラリアンによる共同作業で行っています。また、図書館ガイドと教員向けのニュースレターも利用し、新たに導入したイーブックや分野コレクションを宣伝しています。課題としては、世の中には(無料のものも高価なものも含め)あまりにも多くのコンテンツがあふれているため、教員が利用可能なコンテンツを必ずしも全て把握することができない点があげられます。そのため、新しいコンテンツとリソースを継続的に教員に紹介するとともに、学生をサポートするさまざまなサービスを評価することが当館の仕事となります。学生は既に高額の授業料を支払っています。したがって学生の教材費をできるだけ軽減できるよう、文献などの必要な資料に簡単にアクセスできるよう支援することが、私たちの重要な任務でもあります。

図書館を利用する学生の数の変化はありますか?

面白い質問ですね。特に目立つような変化は起こっていないと思いますが、入館者の数は非常にいい数字を得ています。当館ではこれまで何度も改修工事を行ったため、心地よいスペースが備わっていることにあるのかもしれません。近年、キャンパスでは、学生が作業するための快適な共同スペースを創り出すという取り組みを行ってきました。当館では、利用が少なかった定期刊行物用の閲覧室を、豊かな自然光を取り入れたラウンジスペースに改修しました。現在は、これまであまり訪れようとしなかった幅広い層の人々を引きつけるような設備やリソースが整備されています。そのため、館内で過ごす人々の数が実際に増えていることが分かっています。

また物理と数学のチュートリアルサポートを備えたラーニングコモンズの他、論文執筆センター、研究スキルセンター、当館司書が運営する研究サポートサービス、さらには留学生をサポートする国際共用スペースも設けています。また学生向けの共同スペースや、データとコンテンツを処理するソフトウェアとツールが利用できるデジタルスカラーシップ共用スペースも備えています。当館の特別コレクションやアーカイブを利用したいと考えている教員が増えていることも分かっています。さらにそのコレクションの隣には、教員が学生に資料を提供し、リソースのすぐ隣で講義を行うことができる指導室を設置しています。私たちは正しい協力関係を敷き、教員と学生の双方に適正なツールとサービスを提供することにより、図書館を訪れる人々を増やすべく懸命に取り組んでいます。


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視点を変える:生命科学分野の学生を対象とした数学講座の再構成

Alan Garfinkel

アラン・ガーフィンケル教授

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医科大学院

生物学の学生に対し、さまざまなアプローチを用いて微積分を指導するようになったきっかけについて、アラン・ガーフィンケル教授からお話を伺いました。また、UCLAの生命科学分野の学生に対し、同氏の講座や書籍、関連ビデオが与えた影響についても伺いました。さらに、新しい教育方法にどのように適応し、どのような成果を上げているか、そして、数学を他分野の学生にとって関連性をもたせ、より実践的で楽しいものになるよう、今後どのように数学の教育方法を変えていきたいのかについても尋ねました。

ガーフィンケル教授について

UCLAデヴィッド・ゲフィン医科大学院教授。非線形動力学の観点から見た心不整脈、ならびに生理学と病態生理学におけるパターン形成について研究。

 2013年、UCLAの生命科学部の学生に教えている数学の指導方法を変えたいと相談を受け、同氏は、学生が生物システムのダイナミクスをよりよく理解できるよう、「生命科学のための数学」という特別カリキュラムを策定しました。このカリキュラムはUCLAで4年間実施され、その成果は年々上昇しています。その後、同氏は著書「Modeling Life」を出版しました。この教科書の目的のひとつは、UCLAで展開したコースマテリアルを発展させ、この新たなアプローチをさらに広めることにあります。同氏は、自身が受け持つ学生(と他の機関で生命科学を学ぶ学生)が、生理学と生態学における動的プロセスのモデルの開発に必要な数学的基礎を習得し、応用するための実用的なツールを提供したいと考えました。「Modeling Life」では神経系や生態系、免疫系のダイナミクスを例とし、複雑なフィードバック関係や直感に反する反応が自然界のシステムに共通してみられることを数学的に解説しています。UCLAでは、ガーフィンケル教授の講座を受講した学生から好評を得ており、2018年には1600人が同講座を無事に修了しています。また同書の複数のチャプターに基づいて作成されたビデオシリーズにより、受講者はさらに増加しました。現在まで、同書のチャプターダウンロード数は45万件を上回っています。

さまざまな専門機関が、生物医学分野の学生のトレーニングに関して提言しています。「Modeling Life」では、これらのベストプラクティスのガイドラインを満たすために、どのように数学と生命科学を融合させているのでしょうか?

2009年、米国で最も有名な医療機関であるHHMI(ハワード・ヒューズ医学研究所)とAAMC(米国医科大学協会)の2つの機関が、将来の医師に必要とされる標準的な「学部レベルの能力」の新しいリストを定義しました。「動的システムにおける変化の定量化と解釈」は、このリストの上位に入っていました。2年後、NSF(アメリカ国立科学財団)とAAAS(アメリカ科学振興協会)はその定義を補足し、「生物学的なダイナミクスの研究では、モデル化、計算、データ分析のツールにさらに重点を置く必要がある」と述べています。しかし当時は、ニューラルネットワークと生態系の動的モデル化に関する知識を含むこの能力については、新入生向けの従来の微積分コースでは一切触れられていませんでした。

2013年までは、UCLAをはじめとする全米の数学カリキュラムは、生命科学のプログラムとは比較的切り離されていました。そのため、生物学と医学を専攻する学生は、従来の微積分コースから学んだ数学を自身の専門分野に応用するのに苦労することが多かったのです。したがって、生命科学分野の学生が、それぞれのコースで学ぶ数学の内容を楽しく、自信を持って学習することができる方法を見つける必要がありました。どのプログラムでも、数学は必要不可欠な要素です。しかし、抽象的に教えられると、学部生にとっての意義が失われてしまい、全体の合格率にも影響します。そこでUCLAでは、生命科学分野の学生のサポートを強化し、就職後も活用できる、総合的な応用数学カリキュラムについて、実行可能な案を策定したいと考えました。プログラムが立ち上がってからわずか数年後の2018年には、1600人の学生が優秀な成績を修め、コースを修了しました。その間、私はアメリカ国内の複数の機関で、UCLAのコースについて、そしてコースの成功のためには組織と指導方法を変更する必要があると訴えてきました。

先生が出版された教科書「Modeling Life」が学生の行動や成績に与えた影響について教えてください。生命科学分野の学生の数学に対する姿勢には、どのような変化が見られたのでしょうか?

Modeling Life」が出版されるまでの間、UCLAでは生命科学数学コース(LS30A)を4年間実施してきました。このカリキュラムが、同書の構成と内容をまさに決定づけています。それまでに得られた成果は、注目に値するもので、生物学の学生が数学に取り組んだレベルは、コース実施前後における成績の分布に表われています。従来の微積分コース(数学3A)の学生と比較すると、LS30Aの学生は、数学3Aの学生の2倍の割合で、物理でAまたはA+を獲得しており、成績に著しい差が見られました。LS30Aの構成と内容は、生命科学の成績に影響を与えただけではなく、物理や化学など、関連分野にもプラスの影響を与えたのです。このような違いは、数学の教え方にあります。私たちは数学を抽象的なものとしてではなく、生物学的システムの不可欠な要素として指導したのです。

私たちがこのコースでやりたかったこと、そして後にこの書籍で実現したかったのは、数学のカリキュラムを生物学のコースの中に慎重に策定し、織り込むことで、2つの科目が切り離されて教えられることのないようにすることでした。これにより、生物学の学生の数学に対する認識を変えることが出来ました。私たちが測定した成果の一部を紹介します。

  • LS30を受講した学生の大多数(理系学生の学生の75%、数学系学生の80%)がコースを通じ、自身の数学や科学に関する能力への自信が増したと感じた
  • LS30を修了した学生の94%がコースが妥当であったと実感した
  • LS30を修了した学生の67%が学んだ内容が実際に応用できる、または関連するものであると強く同意した

書籍「Modeling Life」は、LS30カリキュラムをきっかけとして生まれたものです。また同時に、UCLAやそれ以外の大学で生命科学を教えるための確立された指導方法として定着しました。同書と同コースは互いに連携して機能していますし、録画された教育ツール(ビデオチュートリアル)への道を開き、学生の関心がさらに高まっていることを実感しています。

同書の出版後に関心を示した機関や数学プログラムはありましたか?

Modeling Life」の出版により、生命科学・数学コースが広く知られるようになりました。現在では、コーネル大学とアリゾナ大学の数学科で講義が行われている他、カリフォルニア大学サンタクルーズ校でもコースが開発されています。また少なくとも2名の数学の副学科長が「後れを取りたくない」と発言しており、私はキャンパスを訪問し、コースの実施に向けて協力しています。

まずは生物学などの最も基礎的な数学の応用から始めることで、UCLAの他の学部やそれ以外の教員にも応用数学を授業に取り入れるよう働きかけることができました。この分野において大きな変革を成し遂げるためには、完全に統合された学際的アプローチをサポートする教材が重要です。この書籍は、数学科と生命科学科双方の教員に対し、このアプローチを講義に導入する機会を提供しています。

またこの新たな数学指導方法は、大学に始まり、大学に終わるものにすべきではありません。私はこれが早期の教育にも根付くことを期待し、これまでに複数の講義を高校で行ってきました。しかし、現段階では、まだ発展途上であり、多くの生徒が微積分のシステムに苦戦しています。幅広い教育システム全体を通じて応用数学の関連性を高めるまでには長い道のりが残っています。そして「Modeling Life」と生命科学・数学コースは、その取り組みをサポートするために設計されたものなのです。

学生は「Modeling Life」の冊子体と電子版をどのように利用していますか? また、SpringerLinkはどのような役割を果たしているのでしょうか?

SpringerLinkから同書のダウンロードが初めて可能になって以降、チャプターダウンロード数は44万件を上回っています。書籍全体では、約6万3,000件に相当します。同書にオンラインでアクセスできることが、UCLAやその他の学生や教員にとって非常に重要なことであったことは明らかです。

Modeling Life」の各チャプターは、オリジナルの講座のために設計されたモジュールが反映されています。出版されて間もない頃、私は伝統的な講義フォーマットの継続的な有効性について、他の研究者や教員、学習の専門家と議論しました。その中から、反転授業などの新しい授業スタイルを試してみてはどうかという提案がありました。私はその試みに同意し、そして新たな補助教材として作成したビデオシリーズが、そのための理想的な方法であると考えました。試験的に、コースの最初の数週間、学生は授業の前にビデオを観て、それについての議論の準備をしました。ビデオの内容とそれに対する学生の分析を基盤として、各セッションを構成しました。この試みが始まったのは昨年の秋でしたが、その結果は驚くべきものでした。学生の取り組み方は、私の期待をはるかに上回るものであり、この授業スタイルに対する私の認識を一変させました。講義の前にビデオの内容を理解しておき、授業中にそれについて議論してもらうことは、学生が1時間の講義を聞いた(その後、同書を参照した)場合よりも効率的にこの分野に関する知識を構築し、理解を深めていることが分かったのです。この夏、「Modeling Life」の第3章と第4章、第5章をサポートする新たなビデオの制作に取りかかっており、来年のコースには、このビデオを導入する予定です。これまでに制作したビデオは全て公開されています。生命科学コースに数学モジュールを組み入れたいと考えている他の機関は、このビデオを自由に利用することができます。 

これから5~10年の間に、生命科学分野の教育はどのように進化すると思われますか? またこの分野の研究者・教員として、最優先事項は何ですか?

反転授業を試験的に実施して以来、私はこのモデルが生命科学分野の学生にとって有益であることと、学生の学習に与える影響を確信するようになりました。試験的に実施したことは偶然でしたが、今ではこのコースの構成と成果を元に、コース全体の反転授業バージョンを開発しようと考えています。カリフォルニア大学サンタクルーズ校が生命科学数学コースを試験的に導入しており、他の大学も追随する予定であることを聞き、大変心強く感じています。反転授業とこのビデオやこの書籍を組み合わせれば、米国内外にこの指導方法を広め、再現することができるようになります。


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