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【Springboard】変化を超えて、共に担う責任へ:50%のオープンアクセスが意味するもの

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当社のCEOであるFrank Vrancken Peetersが一次研究論文の50%をオープンアクセス(OA)で出版するという目標をどのように達成したのかについて語りました。

2025年4月11日

Research Publishing
著者:Frank Vrancken Peeters(フランク・ブランケン・ピーターズ)、Chief Executive Officer(最高経営責任者)

2021年、私たちは2024年末までに一次研究論文のうち、50%をオープンアクセス(OA:Open Access)で出版にするという大胆な目標を掲げました。この目標は、研究を幅広くアクセス可能なものにし、世界中の研究者が既存の知識に基づき、喫緊の課題に取り組めるようにする必要性から生まれました。

当社の最新の年次報告書に明記されているように、この目標の達成を報告することができることをとても嬉しく思います。しかし、私たちはどのようにしてそれを成し遂げたのでしょうか?そして何を学んだのでしょうか?

持続可能で効果的なオープンアクセスへの移行は実現可能

ただし、それを確実に実現するための万能薬のような解決策はありません。重要なのは、さまざまな手段を数多く用意するということです。シュプリンガーネイチャーでは、以下の項目に重点的に取り組んできました。

  1. 転換契約:当社は全世界で66の転換契約を締結しており、その数は増加し続けています。それにより、3,700以上の研究機関に所属する研究者をサポートするとともに、当社のハイブリッドジャーナルのOA移行を推進しています。2024年には、当社のハイブリッドジャーナルに掲載されたオープンアクセス論文のうち、82%が転換契約を通じて発表されました1。また、転換契約は、各国が自国の研究をオープンアクセスに移行するのを助けており、初年度でオープンアクセス出版の採用率が最大70%に達した例もみられます。オープンアクセスへの移行を推進し、研究者と研究機関の双方にメリットを与える構造的で拡張性の高いアプローチを提供するうえで、転換契約が強力なツールであることが証明されています 。
  2. 完全(フル)オープンアクセスジャーナル:2024年、当社は新たに68誌の完全オープンアクセスジャーナルを創刊しました2。完全オープンアクセスジャーナルには、当社が出版したOA一次研究の73%3がオープンアクセス論文として掲載されました。これは、研究コミュニティーにおける完全オープンアクセスジャーナルの重要性を示しています。完全オープンアクセスジャーナルは、オープンアクセス出版への直接的なルートを提供し、すべての人が即時に研究にアクセスできるようにするものです。当社の完全オープンアクセスポートフォリオの成長は、オープンアクセスに対する需要の増加と、この種のジャーナルが知識の普及において担う重要な役割を反映しています。
  3. 革新的なモデル:当社のCureusポートフォリオでは、新たに3誌のジャーナルを創刊し、質の高い投稿論文については無料でオープンアクセス出版を可能にし、そのほかの論文については低額の編集料を設定していますこのモデルは、アクセス性を向上させ、費用負担を容易にすることにより、学術界以外を含む幅広い層の人々にオープンアクセス出版の門戸を開くものとなります。柔軟な出版オプションを提供することで、多様な論文著者の要望に応じるとともに、経済的制約にかかわらず、すべての人が質の高い研究にアクセスすることができるようになります。

ペースと規模が重要

グローバルなオープン環境を実現するためには、スピードとスケールが重要となります。例えば、当社の日本における転換契約は、2年間で10機関から60機関に拡大し、2,400報以上のオープンアクセス論文を出版しています。この急速な拡大は、オープンアクセスの採用を推進するうえでの転換契約の有効性と、各地域の状況に合わせて契約を調整することの重要性を明確に示しています。転換契約は、リソースを蓄積させ、具体的なニーズに対応し、また、協力関係を推し進めることで、誰もがすべての研究にアクセス可能になるという未来に向け、大きな飛躍をもたらします。また、2024年には米国でも多くの研究機関やコンソーシアムが当社とパートナーシップを結びました。現在、米国市場はオープンアクセスに対する強い支持を示しており、当社とのパートナーシップはその移行を加速する力となっています。さらに当社は、中国とインドにオープンアクセスチームを構築しています。この取り組みは、両国における研究成果の増加を反映したものです。同チームは、現地の研究機関や資金提供団体と連携して、費用負担が容易で、シンプルかつ拡張可能な移行を支援しています。

テクノロジーとAIによる支援が可能

当社では次の段階の移行を加速させるため、テクノロジーとAI(Artificial Intelligence;人工知能)への投資を強化しています。特に、論文著者にとっての研究プロセスと出版をさらに容易なものとすると同時に、研究の公正性と信用も引き続き確実に保護していくことに重点を置いています。当社の査読プラットフォーム「Snapp」は、この取り組みを象徴しています。倫理的かつ責任ある方法でテクノロジーを活用することで、オープンリサーチの実践をサポートするツールとの統合を進め、オープンアクセス出版の規模を拡張することが可能になります。テクノロジーとAIは、出版プロセスを効率化し、研究の質を高め、アクセス性を向上させる絶好の機会を提供しています。たとえば、AIを活用したツールを利用すれば、原稿の作成や査読、データ分析を支援することができます。それにより、論文著者は研究成果を簡単に出版することができ、読者は研究成果に簡単にアクセスし、理解を深めることができるようになります。当社は、研究エコシステムの効率性と透明性を高めることを目的として、この種のテクノロジーに資金を投じています。

公平な移行の実現にはさらなる取り組みが必要

オープンアクセス論文の割合が50%に達したことは、ひとつの節目です。しかし、持続可能で公平なオープンアクセスへの移行を実現するためには、さらなる取り組みが必要です。シュプリンガーネイチャーをはじめとする出版社からは、APC(Article Process Charge;論文掲載料)の免除や地域別価格設定の試験運用などの進展がみられますが、オープンアクセス出版における公平性は、未だ十分とは言えません。アクセスと参加を阻む障壁を打破するためには、出版社、研究者、助成機関、および研究機関の連携が不可欠です。資金やリソース、サポートへのアクセスの格差を解消するためには、継続的な努力が求められ、ともに協力することで、より包括的かつ公平な研究環境を生み出すことができるのです。

今後に向けて

オープンアクセスの実現に向けた当社の取り組みはここで終わるものではありません。グローバルパートナーとの協力のもと、すべての研究者が研究出版システムに完全に参加、貢献できるよう、障壁を取り除いていくことに尽力していきます。今年のB17会議(17th Berlin Open Access Conference)のテーマが示すように、変革とは一部の人々だけではなく、多くの人々が責任を持って進めるものです。オープンアクセスの割合が50%に達するまでの道のりは、協力とイノベーション、柔軟性がいかに重要であるかという貴重な教訓を私たちに教えてくれました。当社は、未来を見据え、オープンアクセスの地平を広げるとともに、すべての人々が研究にアクセスできるようにするべく、引き続き取り組んでいます。テクノロジーへの投資と多様な出版モデルのサポート、グローバルパートナーシップの推進を継続することにより、より開かれた、より公平な研究エコシステムを構築することができるのです。

注釈

シュプリンガーネイチャーのデータ。割合(%)は2024年を通じてハイブリッドジャーナルに掲載されたすべての一次研究論文に占めるオープンアクセス論文の割合を示しています。
2 シュプリンガーネイチャーのデータ。総出版数は、2024年に当社ポートフォリオ全体においてオープンアクセス出版された一次研究論文のみを対象としています。
3 完全オープンアクセスジャーナルにオープンアクセス論文として掲載された一次研究のうち、転換契約に基づかないもの。

オープンリサーチに関する基礎や用語解説は、「オープンリサーチとは?基本コンセプトと取り組み」をご覧ください。

フランク・ブランケン・ピーターズ、最高経営責任者(CEO)

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2017年にシュプリンガーネイチャーのチーフ・コマーシャル・オフィサー(CCO)として着任後、2019年9月より最高経営責任者(CEO)に就任。メディアおよび出版業界において25年以上の経験を持ち、BtoBとBtoCの両方においてさまざまな戦略・デリバリービジネス機能を率いる役職を経験。これまで、Wolters Kluwerで西ヨーロッパの法務・法規制のリージョナルマネージングディレクター、Infinitas Learningでは最高執行責任者、Elsevier Scienceでは、政府およびアカデミック市場のマネージング・ディレクター(MD)、ScienceDirectのMDおよび、グローバルセールスのMDといった上級職を務め、大規模かつ複雑な国際ビジネスの構築と成長に貢献してきた。オランダのエラスムス・ロッテルダム大学で経営学修士号を取得。 

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Springboard blog(シュプリングボード・ブログ)は、オープンリサーチを推進するため、シュプリンガーネイチャーおよびそのパートナーからの最新の見解、コメント、ディスカッションを紹介するプラットフォームです。詳細は、Springboard blogのウェブサイトをご覧ください。

シュプリンガーネイチャーについて

シュプリンガーネイチャーは、世界をリードする研究出版社のひとつです。当社は、最も多くのジャーナルや書籍の出版数を誇り、オープンリサーチのパイオニアでもあります。180年以上にわたって信頼されてきた主要ブランドを通じて、研究者が新たなアイデアを見いだしてそうした発見を共有すること、医療従事者が医学の最前線に立ち続けること、教育者が学習を促進することを支援するテクノロジーを活用した製品、プラットフォーム、およびサービスを提供しています。当社は、当社が支援するコミュニティーとの協力のもと、知識を共有し、世界に対する理解を深めるための進歩に貢献していることを誇りに思っています。詳細は、about.springernature.comおよび@SpringerNatureをご覧ください。

本件に関するお問い合わせ

宮﨑 亜矢子

シュプリンガーネイチャー

コーポレート・アフェアーズ

E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com

本ブログの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語:From Transformation to Collective Responsibility: What Does 50% OA Mean for Us?

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